まとめばスイス

物価高の国で仏陀の如く過ごしたい

世界で一番時給が高い国スイス。時給2600円の根拠はどこから?

 

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2020年9月に行われたスイスの国民投票

 

2020年9月27日、スイスにおいて、国民投票および各地域レベルの住民投票が行われました。

今回の国民投票では、欧州連合EU)からの人の移動の自由を制限する提案をはじめ、合計5件の発議に関する是非が問われました。ちなみに、この国民投票の結果は、Swissinfo.ch のこのページ に日本語で簡潔にまとめられています。

国民投票に加え、各地域ごとに様々な議題に関する住民投票が同時に行われ、その中で、ジュネーブにおいて、最低賃金を時給23フラン(現在の為替レートで約2600円)に引き上げることが決定されました。

 

・・・にしぇーん、ろっぴゃくいぇーん!

 

失礼いたしました、つい取り乱しました・・・

このジュネーブ最低賃金2600円という決定を聞き、確かにスイスの物価は高い。本当に高い。泣くほど高い。ので、やっぱりこのくらいは必要か。という感想を持ちつつ、この数字の根拠はどこかにあるのかな?スイスの州ごとに賃金の格差はあるのかな?などと思ったので、ちょっと調べてみました。

 

スイスの国全体としては最低賃金は定められていない

 

スイスは国レベルでの最低賃金額は定められていませんでした。2014年に行われた国民投票では、国レベルの最低賃金を設定することが否決されました。

他方、州(カントン)レベルで独自に法律を制定することが可能で、ジュネーブ州では過去2回、最低賃金の設定について否決されていました。今回の決定で、既に最低賃金を制定済みのジュラ(Jura)州、ヌーシャテル(Neuchatel)州を含めると、スイスでは3つの州で最低賃金額が制定されることになります。

 

給与の相場を国が教えてくれるツールがある!

 

最低賃金が定められていない場合、賃金は、基本的には個人と会社との交渉、あるいは産業別・会社別の労働協約がある場合はそれに基づくようです。

労働協約は、労使の代表間の交渉等に基づいて決定される取り決めの枠組で、産業ごと(あるいは職種ごと/会社ごと等)に、賃金やその他労働条件が定められている場合があります。

それはわかった、で、ぶっちゃけどのくらいもらえるのよ?という件ですが、スイス政府の「全国賃金計算ツール(National Wage Calculator)」にポチポチと条件を入れれば、だいたいの範囲を教えてくれます。ただし、あくまでも参考金額で、結果の数字には法的強制力はありません。

余談:このツールに、私の前職の条件を入れてみたところ、国が違うだけでこんなに給与の差があるものかと改めて驚きました。まあ私の場合、まだフランス語ができないため、この国では前と同じ条件で雇ってもらえることはかなり難しく、現実的ではないのですが・・・

若い新人の清掃員、月収はどのくらい?

このツールには細かい条件(年齢、学歴、職務経験、職種、勤務地等)を入力する必要があります。

当地のニュースで、今回の決定は「ホテル、レストラン、清掃、小売」関連の人々に対し良いニュースとなったと書かれていました。そのため、以下の条件をツールに入力してみました。

「20歳、勤務年数1年、職業訓練校未卒業、管理職ではない、清掃・補助業務、週40時間、ジュネーブ勤務」。その結果がこちら。

 

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スイス政府の全国賃金計算ツールの結果例

学歴・経験等ほぼなしの若者が、清掃のフルタイム勤務を行う場合、賃金額の中央値はジュネーブ勤務の場合は 4,040 フランスイス全国での中央値は 3,880 フラン、となっています。

今回のジュネーブ州で決定された時給23フラン×8時間(1日の労働時間)×22日(週5日勤務)で計算すると、月収4,048フランとなり、上のジュネーブにおける中央値の金額とほぼ一致しました。

ツールの計算結果を1例しか出していないものの、時給23フランは、国の統計が根拠になっているかと推測しました。

おわりに

時給23ユーロという金額、ジュネーブにおいてぎりぎり暮らしていけるにはこのくらいは必要という。そしてその要求が通るという。直接民主制ってすごいな・・・。

コロナで、雇用状況も、雇い主側も相当厳しい状況かと思いますが、政府からの補助等も続くのか。これはいつか機会を改めて調べてみたいです。

今回、私がスイスに来てから初めての国民投票で、興味深かったです。

以上、私自身まだまだ勉強中のため、事実や認識に誤りがあれば、ぜひご指摘いただけると幸いです。

 

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注記:ここでは、在外公館の名称に合わせて「ジュネーブ」という表記を使用しました。以下参考。

www.nhk.or.jp